ノーラ・ロバーツ(Nora Roberts、出生名:エレノア・マリー・ロバートソン〈Eleanor Marie Robertson〉、1950年10月10日 - )は、200作以上のロマンス小説を上梓しているアメリカ合衆国のベストセラー作家。J・D・ロブ名義で「イヴ&ローク シリーズ」(原題:in Death シリーズ)を執筆しているほか、ジル・マーチやイギリスではサラ・ハーデスティ名義を使用する。
アメリカロマンス作家協会に殿堂入りした初めての作家である。2011年までに、ニューヨーク・タイムズのベストセラー・リストに861週ランクインし、その内176週は第1位を占めていた。
経歴
私生活
1950年10月10日、メリーランド州シルバースプリングにて、5人兄弟の末っ子として生まれる。両親は共にアイルランド系で、ロバーツも自身を「根っからのアイリッシュ」だと述べている。彼女を含め家族はみな読書好きで、本は常に彼女の人生において大切なものだった。子供の頃から頭の中で物語を作っていたが、学校の作文以外に書いたことはなかった。嘘が上手で、母親が今でも信じているものもあるという。教区の学校に通い、先生でもある修道女たちを信じていた。高校2年生の時、地元の公立高校モンゴメリ・ブレア高校へ転入し、そこで最初の夫となるロナルド・オフデム=ブリンクルと出会う。1968年、高校を卒業するとすぐに、両親の反対を押し切って結婚し、キーディスヴィルへ移住する。ロナルドは父と同じ板金の仕事をしていたが、後にロバーツの両親が勤める照明会社へ入った。ダンとジェイソンという2人の息子にも恵まれ、ロバーツは主婦になった。後にロバーツはこの時期を「母性の年」だったと述べている。1日の大半を子供の服作りなどの手芸や陶芸などをして過ごしたという。
2番目の夫、ブルース・ワイルダーは大工で、彼女が本棚の施工を頼んだのがきっかけで出会い、1985年7月に結婚した。ワイルダーはメリーランド州ブーンズボロで「ターン・ザ・ページ」書店を営んでいる。夫妻は書店の近くにホテルも開業しており、2008年2月に火災に見舞われ、2009年に改装を経て「イン・ブーンズボロ」としてオープンした。ホテルの部屋には、古今のロマンス小説の名作のカップルの名前が付けられている。
ロバーツはかつて、「目的もなくただ歩き回ったり、ミューズ(創作の女神)が下りてくるのをただ待っているだけなら、失業してしまうわ」と述べており、小説を執筆する時は1つの作品に集中し、休暇中であっても毎日1日8時間を執筆活動に充てている。執筆は、大まかにあらすじやプロットから始めるのではなく、物語の鍵となる出来事やキャラクターや設定をまず夢想することから始め、それから初めて物語の基礎となる短い下書きを書き、その作業を終えてから、作品の冒頭部分に取りかかる。2度目の下書きで細部を詰めていき、キャラクターの設定をより深く決めていく。その後、最終チェックをし作品を磨いた上で、エージェントのエイミー・バーコワーに原稿を送る。
彼女の作品の多くは三部作で、同一のキャラクターを登場させている。「イヴ&ローク シリーズ」でも可能な限りそれを実践しており、三部作を書いてから現代ロマンスに戻った。三部作は全てペーパーバックで出版されており、ハードカバーは自分の読者には長すぎるとロバーツは考えている。
飛行機が大の苦手なため、執筆に必要な調査はほとんどインターネットで行っている。
熱狂的な野球ファンで、地元のマイナーリーグチームのヘイガースタウン・サンズからも讃えられている。
作家としてのキャリア
初期
小説を書き始めたのは、1979年2月、猛吹雪で外出できず2人の息子と家にこもっていた日だった。雪が1メートル弱積もり、チョコレートも減り、幼稚園にも行けず、何もすることがなかった。頭に浮かんだアイディアを書き出していた時、自身の執筆プロセスが気に入り、すぐに6編の原稿が書き上がった。その原稿をロマンス小説で有名なハーレクイン社に送ったが、何度も突き返された。ロバーツはこの時のことをこう述べている、
最初の数回は普通に返されただけだったけれど嬉しかった。返ってきた原稿には、「(あなたの作品は)見込みがあり、物語もとてもエンターテイメント性がありよく出来ているが、ジャネット・デイリーに代表されるアメリカの作家の既刊作品のようだ」と書かれていたから。
ペンネーム
ノーラ・ロバーツ
1980年、新しく誕生した出版社シルエット・ブックスが、アメリカ中の作家から、ハーレクイン社に断られた作品を集め刊行した。ロバーツはシルエット社にようやくたどり着いた思いで、1981年に同社から処女作『アデリアはいま』(原題:"Irish Thoroughbred" )を上梓した。ロマンス小説作家はみなペンネームを使っていると思っていたため、自身も本名のエレノア・マリー・ロバートソンを縮めて、ノーラ・ロバーツというペンネームにした。
1982年から1984年の間に、シルエット社から23冊の小説を上梓した。1985年、「マクレガー家シリーズ」の第1作『真珠の海の火酒』(原題:"Playing the Odds" )が刊行されると、すぐにベストセラーとなった。
1987年、バンタム社に単発の作品を書き始める。5年後、プットナム社へ移籍すると、ペーパーバックだけでなくハードカバーの作品も上梓した。1996年に刊行した4冊目のハードカバーの作品『モンタナ・スカイ』(原題:"Montana Sky" )でベストセラーリスト(ハードカバー部門)にランクインした。ペーパーバックの単発作品の執筆は今でも続けている。時々、短めのロマンス作品も書いており、これは彼女自身が子育てで忙しかった時期に本を読む時間が取れず、幼い子供を持つ母親は20万語以上の作品は読めないという実感から来ている。
ロバーツと彼女のキャリアは、パメラ・レギスの著書"A Natural History of the Romance Novel" に取り上げられており、レギスはロバーツを「会話シーンにリアリティがあり、シーンの構成が巧みで、ページをめくる手をゆるませないロマンス小説の巨匠」と評している。また、『パブリッシャー・ウィークリー』はロマンス小説のジャンルにおいては「皮肉なユーモアがあったり、語り手が入れ替わったりする手法はかつては珍しかった」と述べている。
J・D・ロブ
メアリー・ステュアートのようなロマンティック・サスペンスのジャンルを書いてみたいと思っていたロバーツは、エージェントに自分の気持ちを伝えたが、当時のロバーツはクラシカルな現代ロマンス小説ばかりを書いていて、読者もそのファンばかりだった。1992年にプットナム社へ移籍後、ロバーツが今のペースを保つのは難しいと判断した出版社は、別のペンネームを用いて書くことを勧めた。
エージェントのエイミー・バーコワーは、ロバーツが新しい名前でロマンティック・サスペンス小説を書けるよう編集者を説得した。J・D・ロブ名義の処女作は1995年に出版された。イニシャルのJ・Dは、2人の息子ジェイソン (Jason) とダン (Dan) から取られており、ロブはロバーツを縮めたものである。当初は、D・J・マクレガーというペンネームを考えていたが、出版直前に既に同じ名前の作家がいることが判明し、変更した。
J・D・ロブとしてロバーツが上梓したのは、未来を舞台としたSF警察小説で、ニューヨーク市警察のイヴ・ダラスとその夫ロークが21世紀半ばのニューヨークを舞台とした「イヴ&ロークシリーズ」の一部でもある。犯罪の謎解きの面を強調しているが、シリーズの全体的なテーマはイヴとロークの関係である。このシリーズが始まった時、編集者もロバーツ自身も本当の意味で作家ではないと思っており、このシリーズの良いところが評価されるようになり、ファンが付くようになる事を願っていた。
「イヴ&ロークシリーズ」を18冊上梓した後、プットナム社は19作目をハードカバーで出版した。その作品は、2004年に初めてロバーツの著作の中でベストセラーとなった。
「イヴ&ロークシリーズ」は現在も続いている。
その他のペンネーム
その他にも、ジル・マーチ名義で雑誌に"Melodies of Love" という物語を発表している。
また、サラ・ハーデスティという名前は、イギリスで"Born In" シリーズが出版された際に使用されたペンネームである。以後、出版社を変えた。
成功
1996年、通算100冊目となる『モンタナ・スカイ』を、2012年には200冊目となる『孤独な瞳の目撃者』(原題:"The Witness" )を上梓した。1999年と2000年に『USAトゥデイ』のベストセラーリスト(ロマンス小説部門)に名を連ねた作品のうち、5冊中4冊がロバーツの作品であった。『ニューヨーク・タイムズ』のベストセラーリストに初めて乗ったのは1991年のことで、それから2001年までランクインし続けた。『ニューヨーク・タイムズ』はロバーツの作品の批評をしていない。『パブリッシャー・ウィークリー』によると、2001年にロバーツはマスマーケット・ペーパーバックで10冊のベストセラーを出したが、これらはJ・D・ロブ名義のためカウントされていない。同年9月、『パブリッシャー・ウィークリー』のベストセラーリストで、ロバーツ名義の"Time and Again" が第1位に、J・D・ロブ名義の『薔薇の花びらの上で』(原題:"Seduction in Death" )が第2位にランクインした。
1999年から、ロバーツの作品はいずれも『ニューヨーク・タイムズ』のベストセラーに入り、『タイムズ』のリストには124作が入り、その内29作が第1位だった。2013年1月24日時点で、ロバーツの作品は『ニューヨーク・タイムズ』のリストに948週ランクインし、その内148週は第1位を占めた。2009年1月9日時点で、ロバーツの作品は4億部発行されており、2005年だけで1200万部売れた。35か国以上で出版されている。
アメリカロマンス作家協会 (RWA) の創設時のメンバーで、ロバーツは同協会初となる殿堂入りを果たした。1997年にRWAの生涯功労賞を受賞、2008年に同賞はRWAノーラ・ロバーツ生涯功労賞と賞の名を変更した。2012年までに、ロバーツはRWAが主催するリタ賞を21回受賞するという、ロマンス小説のジャンルでは比類なき功績を打ち立てた。
『サンクチュアリ』(原題:"Sanctuary" )と"Magic Moments" の2作はテレビ映画化された。2007年、ライフタイム・テレビジョンにより、『羽根をなくした天使』(原題:"Angels Fall" 、ヘザー・ロックリア主演)、『モンタナ・スカイ』(アシュレー・ウィリアムズ主演)、『炎の壁の彼方から』(原題:"Blue Smoke" 、アリシア・ウィット主演)、『少女トリーの記憶』(原題:"Carolina Moon (2007 film)" 、クレア・フォーラニ主演)の4作が映像化された。ライフタイムが同じ著者の作品を何作も映像化するのは初めてのことであった。2009年3月・4月には、『十七年後の真実』("Northern Lights" 、リアン・ライムス、エディ・シブリアン主演)、『愛は時をこえて』(原題:"Midnight Bayou" 、ジェリー・オコンネル主演)、『真昼の復讐者』(原題:"High Noon" 、エミリー・デ・レイヴィン主演)、『遥か栄華をはなれて』(原題:"Tribute" 、ブリタニー・マーフィ主演)の4作が続けて放送された。
2007年、『タイム』誌が選ぶ「もっとも影響力のある100人」に選出された。「影響力のある100人」に選ばれた作家は、ロバーツのほかにデイヴィッド・ミッチェルしかいない。
剽窃(盗作)被害
1997年、ベストセラーロマンス作家のジャネット・デイリーが、ロバーツの作品を盗作していたことを認めた。ロバーツの『プリンセスの復讐』(原題:"Sweet Revenge" )とデイリーの"Notorious" を読んだ読者が2作が似通っていることに気づき、インターネットに当該部分を投稿したことで明るみに出た。ロバーツは大変驚き、デイリーを告訴した。デイリーは盗作を認め、精神の病気のせいだと述べた。デイリーが"Aspen Gold" と"Notorious" の2作が特に著しい剽窃であることを認め、絶版となった。1998年4月、和解が成立し、ロバーツは和解金をNPO団体のアメリカボランティア文学協会を含む文学団体に寄付した。
2008年1月、過去の作品(多くはパブリックドメイン)からクレジットなしで剽窃を繰り返していたロマンス作家のキャシー・エドワーズを強く非難するグループに加わり、エドワーズが仕事をできないようにした。
チャリティ活動
ロバーツは、ノーラ・ロバーツ財団を通じて多額の寄付をしており、ギビング・バック・ファンドが選ぶ「もっとも慈善的なセレブ」の1人に数えられている。財団は、文芸活動を奨励し、子供を助け、人道的な活動をする団体を財政面で支援している。また、メリーランド州ウェストミンスターのマクダニエル・カレッジに、ロマンス小説の奨学金を支給するノーラ・ロバーツ・センターを寄贈した。他にも、私物のジュエリーをオークションに出すなどの活動もしている。
作品リスト
ノーラ・ロバーツ名義
J・D・ロブ名義(イヴ&ローク シリーズ)
映像化作品
映画・テレビ映画化
- 恋の魔術にかかったとき Magic Moments (1989)
- サンクチュアリ ストーカーの恐怖 Sanctuary (2001)
- Carnal Innocence (2011)
ライフタイム・ムービー・チャンネル
ライフタイム・テレビジョンにて放送されたテレビ映画。8作ともマンダレイ・テレビのピーター・グーバーとステファニー・ジャーマンがプロデューサーを務めた。
- 2007年
- 
- Angels Fall
- Montana Sky
- Carolina Moon
- Blue Smoke
 
- 2009年
- 
- Northern Lights
- Midnight Bayou
- High Noon
- Tribute
 
日本での漫画化
- 妖精の贈り物シリーズ
- 太陽の宝石を君に(2009年、ソフトバンククリエイティブ、全1巻、作画:真崎春望)
- 月の涙を君に(2010年、ソフトバンククリエイティブ、全1巻、作画:真崎春望)
- 海の心を君に(2010年、ソフトバンククリエイティブ、全1巻、作画:真崎春望)
 
- 永遠の魔法に包まれて(2009年、ソフトバンククリエイティブ、全1巻、作画:綾部瑞穂)
- 魔女の暮らす島シリーズ
- 月夜に愛のダンスを(2009年、ソフトバンククリエイティブ、全1巻、作画:橘花夜)
- 愛は嵐の果てに(2010年、ソフトバンククリエイティブ、全1巻、作画:橘花夜)
- 愛の炎は永遠に(2010年、ソフトバンククリエイティブ、全1巻、作画:橘花夜)
 
- 海が紡ぐ絆シリーズ
- 愛、充ちゆく海辺で(2009年、ソフトバンククリエイティブ、全1巻、作画:英洋子)
- 愛、さざめく渚で(2010年、ソフトバンククリエイティブ、全1巻、作画:英洋子)
- 愛、きらめく港で(2010年、ソフトバンククリエイティブ、全1巻、作画:英洋子)
 
受賞
ノーラ・ロバーツ名義
ゴールデン・メダリオン賞
アメリカロマンス作家協会が主催する賞、1990年にリタ賞に改称される。
- 『明日に吹く風』(The Heart's Victory ) - 1983年・現代官能ロマンス部門
- Untamed - 1984年・トラディショナル・ロマンス部門
- 『魔法のときをふたりで』(This Magic Moment ) - 1984年・現代ロマンス(65,000 - 80,000字)部門(Deirdre Mardnの"Destiny's Sweet Errand" と同時受賞)
- 『炎と氷のロマンス』(Opposites Attract ) - 1985年・現代ロマンス短編部門
- 『誘いかける瞳』(A Matter of Choice ) - 1985年・現代ロマンス長編シリーズ部門
- 『ファインダー越しの瞳』(One Summer ) - 1987年・現代ロマンス長編シリーズ部門
- 『傲慢な花』(Brazen Virtue ) - 1989年・サスペンス部門
リタ賞
ゴールデン・メダリオン賞の後身で、アメリカロマンス作家協会が主催する。
- 『真夜中にささやく唇』(Night Shift ) - 1992年・ロマンティック・サスペンス部門
- 『森のなかの儀式』(Divine Evil ) - 1993年・ロマンティック・サスペンス部門
- 『ナイト・シェイド』(Nightshade ) - 1994年・ロマンティック・サスペンス部門
- 『愛と裏切りのスキャンダル』(Private Scandals ) - 1994年・現代シングル・タイトル部門
- 『聖夜の殺人者』(Hidden Riches ) - 1995年・ロマンティック・サスペンス部門
- 『心やすらぐ緑の宿』(Born in Ice ) - 1996年・現代シングル・タイトル部門、ロマンス部門
- 『少女トリーの記憶』(Carolina Moon ) - 2001年・ロマンティック・サスペンス部門
- 『運命の女神像』(Three Fates ) - 2003年・ロマンティック・サスペンス部門
- 『あの頃を思い出して 第一部』(Remember When – Part 1 ) - 2004年・ロマンティック・サスペンス部門
- 『優しい絆をもう一度』(Birthright ) - 2004年・現代シングル・タイトル部門
- 『遥か栄華をはなれて』(Tribute ) - 2009年・ストロング・ロマンティック・エレメンツ
クィル賞
クィル財団により2005年から2007年まで主催された賞。
- 『羽根をなくした天使』(Angels Fall ) - 2006年・ブック・オブ・ザ・イヤー、ロマンス部門
- 『炎の壁の彼方から』(Blue Smoke ) - 2007年・ロマンス部門
J・D・ロブ名義
- 『幼子は悲しみの波間に』(Survivor in Death ) - 2006年・リタ賞ロマンティック・サスペンス部門
- New York to Dallas - 2012年・リタ賞ロマンティック・サスペンス部門
出典
外部リンク
- Official website
- Official UK website
- InDeath.net J.D. Robb Fan Forum – includes an In Death Fan Fiction Database and an In Death Wiki Database
- Memmott, Carol (2009年2月11日). “Nora Roberts' romantic inn”. USA Today. http://www.usatoday.com/life/books/news/2009-02-11-nora-roberts_N.htm
- ハーレクイン オフィシャルサイト / 作家詳細 ノーラ・ロバーツ(日本語)




